夢を持つ者へ。

インターウォールに関して。私自身に関して。普段はフィギュアスケート等の記者として活躍されている島津愛子さんに、インタビューをしていただきました。本文は以下より始まります。
夢を持つ者へ。漫画家/イラストレーター佐々木充彦13000字インタビュー

インタビュー・テキスト:島津愛子

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「行け。勇んで。小さき者よ。」と有島武郎は応援してくれますが、勇んで行った先のことは教えてくれません。制作期間4年・全608Pフルカラーのマンガ『インターウォール(interw@//)』という夢を形にした佐々木充彦さんに、夢を掴み夢を持ち続けるお話を伺いました。その生き方は真実の物語です。

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夢を持つまで

25歳ぐらいになって、「これはちょっと……ヤバいな」と思って(笑)。このままじゃ将来ろくでもないと、「何かいっこ形に残るものを作ろう」と。それはもう「『インターウォール』をマンガにすること」しかないなと思ったんです。

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ー佐々木さんは、どんな子供時代を過ごされていましたか?
佐々木:小さい頃は、絵を描くのは好きでした。家にファミコン(「ファミリーコンピューター」:テレビゲーム機)がなかったので、兄と一緒に絵を描いたり、紙でおもちゃを作って遊んでいましたね。父が絵の上手な人だったので、自然と子供の頃から絵を描く機会は多かったとは思います。
ー絵を習われていましたか?
佐々木:習ったことはないですね、絵で何か賞を取ったのも小学校が最後で……(笑)。僕、デッサンが出来ないんですよ(笑)。
ーいいえ!『インターウォール』は美術ファンにとってはストーリーのある画集とも言え、全カットが完成された絵画になっています!その絵画性が、佐々木さんのマンガの独創性にも繋がっていると思います。
佐々木:そう……でしょうか(笑)?でも、『インターウォール』を描く前は、時流へのアンチテーゼじゃないですけど(笑)、「目を描きたくないなあ」とかは思ってはいました。最初と最後は全然絵が違うと思うんですよ。『インターウォール』の1P目っていうのは「マンガを描き始めた絵」です。自分は最初の絵のほうが良かったなと……今思えばですけど。

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ーマンガからは離れていますよね。それに、『インターウォール』でまず持っていかれるのは、琳派にも通ずるような強い意匠の表紙です。しかも自然や動物ではなく「人」がデザインされています!

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ー佐々木さんは、小さい頃から構築的な絵を描かれていましたね。
佐々木:そう(笑)、あの『まる、さんかく、しかく』。たまに思いついたように、細かい絵を描いていましたね。子供の頃からマンガも描いていました。棒人間みたいな(笑)。あれだとパパパーッと描けるのでノートに描いては消し、みたいなことはやっていました。でも、本格的に描いたことはなかったです。マンガの道具も買ってみたことはあるんですけど。
ー思春期の頃は、どんなことをされていましたか?
佐々木:僕、中学高校と野球部だったんです(笑)。
ーまったく別の道に(笑)。ポジションは?
佐々木:「3番ショート」です。
ー(機動力野球好きには)花形ですね!
佐々木:部員が9人しかいなかったので(笑)。
ーちょうどいい(笑)。
佐々木:弱いチームだったんですけど、一応続けてやっていました。中学高校の頃は絵を描いていた記憶はないですね。教科書に落書きするくらいです(笑)。中学の野球部の顧問が美術の先生で、「佐々木は美術部入らん?」と言われことはありましたけど。
ー野球がお好きだったんですね。
佐々木:うーん……周りがやってたから(笑)。父も野球が好きだったので。でも、僕スポーツに向いてなかったから、うまくはなかったですね。
ーでも、6年間スポーツを続けられたのは立派です!
佐々木:田舎のほうだったので、他にやることもなかったですし。友達と野球をする感覚、それが好きでやっていましたかね。
ー皆で一緒にやる感覚とひとりで絵を描く感覚、両方お好きなんですね。
佐々木:僕、チームプレーは向いてないと思うんですけど(笑)。今思えば、やっててよかったなと思います。でも、もっと頑張ればよかったなと(笑)。
ーそこから、どうやって絵の道に戻られたのでしょう?
佐々木:高校卒業後に就職したんですけど1年で退職して、フリーターをしながら専門学校に入り直したんです。その当時はカフェブームだったので、カフェをやりたいなと思って入ったんですけど、結局やらなかったですね(笑)。でもその専門学校の授業で初めてイラストレーター(画像作成ソフト)を使って、「僕は、カフェよりもイラストレーターを使ったりする仕事のほうが向いているんじゃないかな」と。その時は何も考えてなかったから、パッと出来たんだと思います。
ーそこで出会ったんですね。多様な分野に触れられることが専門学校の利点ですね。
佐々木:と、専門学校で勉強したんですけど、結局専門学校でも就職が決まらず……。専門学校に入った時に某コーヒーチェーンでアルバイトを始めたんです。それが『インターウォール』に出て来るカフェなんですけど。働いていた時に思いついた物語が『インターウォール』です。

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佐々木:最初は小説だったんです。漫画家ではなく小説家になりたかったので(笑)。
ーなかなか『インターウォール』に辿り着きませんね(笑)。
佐々木:その頃村上春樹さんが大好きで、『インターウォール』も今思えばオマージュでしたかね。『ダンス・ダンス・ダンス(1988年)』がすごく好きで、ああいうの書きたいなと。当時は一人暮らしで家にテレビもなくて、何もやることがないから「ひたすら小説を書く」という……暗い青春だったんですけど(笑)。でも、友達に出来た小説を読んでもらったら、「文才はないんじゃない?」って(笑)。書き終えてからは『インターウォール』のことは忘れてたんです。コーヒーチェーンを辞めて再就職したんですけど、その仕事も続かず。今でもそうなんですけど、僕、うまく社会に溶け込めないんです(笑)。
ーそ、そうですか?
佐々木:25歳ぐらいになって、「これはちょっと……ヤバいな」と思って(笑)。
ー夢抱えて20代半ばに入っちゃうと、言い知れない焦りに襲われますね(笑)。
佐々木:このままじゃ将来ろくでもないと、「何かいっこ形に残るものを作ろう」と。それはもう「『インターウォール』をマンガにすること」しかないなと思ったんです。

全608Pフルカラー、制作期間4年。『インターウォール』を文学として読む・美術として見る。

文学として読む『インターウォール』

『インターウォール』はすごく不親切なマンガだと思います(笑)。

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ー『インターウォール』は、説明がない、ということもマンガ離れしていると思います。すごく映画的で。『ブレードランナー(1982年)』、『未来世紀ブラジル(1985年)』、『裸のランチ(1991年)』、『12モンキーズ(1995年)』、『ダークシティ(1998年)』、『ドニー・ダーコ(2001年)』、そういったSF映画を見ている感じを受けました。
佐々木:ありがとうございます。映画はよく見ますね。ジブリ作品、宮崎駿さんの作品をよく見ます。デヴィッド・フィンチャー監督作も。『インターウォール』を「舞台的」と言われる方もいます。街(「リバーサイド・シティー」)が舞台になっていて、過去・現在・未来が舞台装置で変わる感じで「演劇の舞台転換に近いよね」と……言われて、自分でも初めて「なるほど」と(笑)。
ー(笑)そうなんですね、図らずも、描きたいように描かれたらそうなったんですね。
佐々木:最初は元の小説の通りに描こうと思ってたんですけど、描き始めていくうちに「この通りに描いてたらとんでもない長さになっちゃう」と。1000Pぐらい(笑)!それに、その時の状況で描きたいものも変わってくる。過去に向き合うんではなくて未来に向かって行くような、希望のある物語に変えようと。大まかな流れは一緒なんですけど、過去・現在・未来の仕組みとか「インターウォール」の登場のさせ方とかは結構変えました。……描きながら自分で理解していく、みたいな(笑)。『インターウォール』をネットで連載していた時は全4回でやっていたんです。1〜3話はそれぞれ100Pずつ、4話は250Pぐらいになって(笑)。1〜3話まで描いて、やっと「インターウォール」がどういうものか、どういう話になるのか、ちょっとずつちょっとずつ理解していったような感じですね。帳尻を合わせるために最後の4話がすごく長くなっています。
ー小説とマンガで2回かかれているから、あの簡潔明瞭感があるんですね!御自身で編集されて。読み手に向けた説明がセリフに入っていると、むしろその世界に没入出来なくなるのですが、『インターウォール』はそれが一切なかったです。
佐々木:そういう意味では、『インターウォール』はすごく不親切なマンガだと思います(笑)。
ー佐々木さんの他のマンガ作品もそうですけれど、余計な視点が入らず、心模様が直に描かれているので、登場人物と一緒に涙が出るんです!
佐々木:ありがとうございます!

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本の内側には小説がデザインされ、小説が『インターウォール』を包み込む。

美術として見る『インターウォール』

色の塊を配して、色がばらけるように。
引きを強く、次が読みたくなるように。

ー私、てっきり佐々木さんが古今東西の美術やデザインを網羅されているような方だと思っていたので、その美的センスが自然発生であることに愕然としているんですけれども……マンガとイラストではどんなアーティストを御覧になっていますか?
佐々木:佐々木マキさん、手塚治虫、ゆうきまさみさんとか、小さい頃に好きだった漫画家さんはいるので、その方達に絵は近くなっているのかなとは思います。イラストでは、やっぱり佐々木マキさん(笑)、最近ではフィンランドの絵本作家のマウリ・クンナスさんが好きですね。
ー美術展は行かれますか?
佐々木:福岡にはアジア美術館があって、3年に1回「福岡アジア美術トリエンナーレ」が開催されるんですけど、そういうイベントはよく行きます。立体、映像、インスタレーションとかいろいろ見られますし。僕、「訳分からないもの」が好きで(笑)。「何がアートなんだろう」と考えるのが好きです。たまに東京に行った時は、森美術館や東京都現代美術館に行ったりします。
ー佐々木さんの絵は、独自の工程で描かれていますね。

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手描きでモノトーンの線画を下絵として仕上げ、それをスキャンしデータにしたものをイラストレーターで色付けする。下絵は、鉛筆で下描きし「ピグマ」ペンで完成させる。

佐々木:(『インターウォール』の原画を見せて下さる佐々木さん)こうやって下絵を描いて、パソコンで色を塗っていきます。
ーわー……(手描きで)すぐサッとこの線が出ますかね……ウソみたい!
佐々木:(笑)『インターウォール』の場合は、描きたいものが定まっていたから描けたのかもしれないです。
ーイラストレーターを使って描かれる方は、最初からイラストレーターで描かれていますよね。
佐々木:だから僕は倍時間がかかります(笑)。(味になっている)粒子の粗いところとかはコンピューターでは出ないのかなとは思います。
ー下絵が墨絵の状態で仕上がってるんですね。伊藤若冲、藤田嗣治、日本画や陶芸の技法……塗りも御自身でやられる浮世絵(版画)ですね!浮世絵だと色数も決まっていますが、佐々木さんは無限ですね!
佐々木:(笑)無限です。
ー佐々木さんの絵の色合いも特異だと思うんですけど……渋いのにカラフルというか……配色はすぐパッと出来ますか?
佐々木:色はイラストレーターの「スウォッチ」を活用しています。群衆って、現実は結構真っ黒なんですよ。皆暗めの服を着るし、髪の色もそうです。写真ではカラフルにならないですけど、補色も考えながらカラフルになるように「色の塊」を配して。「色がばらける」ように気を付けてやっています。
ー規則性があるようでないという……でも煩雑な色の洪水にはなっていない……習って身に付くものではない、色のセンスですね。
佐々木:人に言われて出来る……ものではないかもしれませんね(笑)。
ー印象派、フォーヴィズムの画家達、カンディンスキー(『Color Study, Squares with Concentric Circles』1913年)に見せたいですよ!現代のジャポニズムとして外国の方に見てほしいです!
佐々木:へえー……英語版も出したいとは思っているんです!
ー最初に墨絵があるから色に深みが出ているのは分かりました。
佐々木:印刷する時は出版社さんが大変そうでしたね。「こんなデータ見たことない」って(笑)。色校(「色校正」:印刷を画像と照らし合せ、色を近付ける作業)を何回もやって……なんとか綺麗に作って下さいました。
ー佐々木さんのコマ割もマンガとは異質なんですけど……「ネーム(コマ割)」は作られていますか?
佐々木:一応やっているんですけど、いつの間にか変わっていっちゃう(笑)。
ー『インターウォール』は、画的にも味わったことのない感覚……ポスターを連続で見ているというか……どうやってこうなるんだという……。
佐々木:次読みたくなるように、と(笑)。引きの強さみたいな。

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作品が出来てから——夢を持つ者にとってのもうひとつの関門、営業。

作品が出来てから

ちょっとでも……「イイね」だけでもいいので、反響はほしいですよね(笑)。
結局、“送ったところ”ではないところから本を出しました。

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ー『インターウォール』をネットで連載されている間、反響はどうでしたか?
佐々木:正直……思ったほどではありませんでしたね(笑)。出版後のトークイベントで「これだけの方が読んで下さっていたんだ」と初めて知って(笑)。
ーアーティスティック兄さん姉さんって、「出過ぎた真似しない」みたいなところがあるので、好感を抱いても自分から声をかけてくれないんですけど、気軽に声かけてほしいですよね!
佐々木:ちょっとでも……「イイね」だけでもいいので、反響はほしいですよね(笑)。見られているのかも分からないですし。
ー知らせてほしいですよね(笑)。
佐々木:出版部数も多くはありません。好きな人はとことん好きになってくれるマンガなんですけど。
ーええ!?話題になっていましたよね?
佐々木:メディアには取り上げられたんですけど。ワーッと売れるよりは徐々に浸透していくほうがいいんじゃない、とは皆さん言って下さいますね。
ー書籍化にあたり、御自身で出版社に掛け合われたそうですね。
佐々木:企画書を10社ぐらいに送ったんですけど、全部だめでしたね(笑)。
ーそうでしょうね(笑)。
佐々木:「そうでしょうね」って(笑)。
ーいえ、私も企業へのプレゼンは何度も試みたので結果が分かるんです。相手がこちらを御存知ない場合、その相手は「(自分も知らないんだから)お金にならない」と思われるんですよ。御用命を頂くようになるまでは、全部跳ね返されます!
佐々木:あー(笑)。
ーですから、最初に佐々木さんに御用命を出された『インターウォール』の編集の方は、慧眼をお持ちだな!と。
佐々木:PIE BOOKS の野口(理恵)さんは、Twitterから御連絡を下さったんです。「本にしませんか?」と。PIE BOOKS さんはデザイン/ビジュアル系の出版社で、それまでマンガを出されていなかったんです。「誰が見てるか分からないな」と不思議だったんですけど(笑)。結局、“送ったところ”ではないところから本を出しました。
ー“送ったところ”からは良い返事は来ないんですよ!
佐々木:そうですね(笑)。
ー若い子に「出しても討ち死にする」って伝えたいですよ(笑)。でも、何かを売り込む術を知るっていうのは、自分のためにはなった気はしますけれど。
佐々木:Twitterはやっててよかったと思います!
ーやはり世の中に出さないとだめですね。
佐々木:そこからイラストの依頼も来るようになって、3年前からはトーチ(リイド社)でマンガ『SHORT/WONDER/SHORT』の連載もしています。トーチの編集の方も『インターウォール』を読まれて、お話を下さったんですけど。
トーチは……僕は『世にも奇妙な物語』(フジテレビのドラマ)がすごく好きで、「短くまとめる不思議な物語」にしようと。編集の方からは「かわいい女の子」を描くように言われています(笑)。

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兼業アーティストの日々

ふとした瞬間に思いつくオリジナルなものを描きたいです。

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佐々木:『SHORT/WONDER/SHORT』(「トーチ」リイド社)は……最近全然ストーリーが出て来なくて(苦笑)。『夢花火』と『最後のわたし』で打ち止めになっちゃってるんですよ。
ーはい……(『夢花火』『最後のわたし』は2015年掲載)。
佐々木:……頑張らないといけないと思ってるんですけど!(明るく笑いかけて下さる佐々木さん)
ー例えば、『夢花火』(15Pフルカラー)の制作期間はどのくらいですか?
佐々木:2週間ぐらいかな。「浮かぶまで」が長いというか。ストーリーを考えるのは難しいですよ(苦笑)。特にショート・ショートだと何描いていいのかも分からなくなっちゃう。いつも編集さんに「描けません」って泣きついてるんですけど。
ー締切は切られていないのですか?
佐々木:前はあったんですけど、今は「落ち着いて考えて下さい」と(笑)。
ー締切があったほうが火事場のなんとか力が湧く、とかありませんか?
佐々木:前はそうだったんですけど……『夢花火』の反響があったみたいで、「もっとおもしろいものを」という期待も高く……そうなると難しいですね。
ーマスターピースな傑作だけに……。
佐々木:描いている時のことって結構忘れるんです。「自分の感情をそのままに描いている」感じがあるので。
ー心模様を!
佐々木:そういう気分の時はパアーッと描けるんですけど、そういう気分の時がそうそうあるものではないので。
ー描き出すところまで行けないですね。

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ー『インターウォール(interw@//)』もそうですけれど、SF風の「不思議な物語」にしようというのは意図されているのでしょうか?日常をテーマにしたものも構想されていますか?
佐々木:日常的なものを描いてもボツになることが多いです(笑)。現代劇ってあんまり向いてないのかもしれないです。画的におもしろくならないからだと思うんですよ。あと、僕の絵ってすごく色が多いので。現代的なものを描くと色数が限られてしまいますね。
トーチでは「感情を描くようにして下さい」と言われていて「突拍子もないものを描いて下さい」とは言われていないんですけど……。『SHORT/WONDER/SHORT』は設定がでたらめで(笑)、『夢花火』みたいなどこの世界のことなのか分からない話もあったりして……自分で描いててよく分からなくなる時もあります(笑)。
ー全部狙いなのかなと思っていましたよ。作風を定めようと思われていますか?
佐々木:そうですね……『インターウォール』みたいなものはもう描かないんじゃないかなとは思います。
ー描いて下さい!
佐々木:(笑)僕も描きたいなとは思うんですけど。
ーあの温度で描けない、と……。
佐々木:『インターウォール』はそうですね、特殊なマンガですよね(笑)。

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佐々木:何個か構想みたいなものもあって、描こうと思えば描けるかもしれませんけど、まだ全然固まってはいないです。今は目の前の仕事があるので、とりあえずはそれを終わらせないと。僕、昼間サラリーマンをやっているので。夜にマンガを描いている感じです。
ー!?……佐々木さんでもそう(兼業)なのか……佐々木さんでも?
佐々木:(笑)そうですね……。
ー兼業イラストレーターの知り合いも結構いるんですけど、佐々木さんでもですか……。
佐々木:普段別のことをしているほうがいいんじゃないかなとは思うんですけど。仕事の依頼が来ないうちは自分の好きなものが描けるので、逆にいいのかなあとも思います!
ーでも、マンガはイラストとはかかる時間が違いますよね。
佐々木:生活があるので、どうしても収入は必要になります。イラストのほうが割は良いかもしれないです。イラストの仕事が月に2件来て+マンガの連載があれば、一本立ち出来ると思うんですけど。イラストの依頼はあったりなかったりなので。不安定っちゃあ不安定です(笑い飛ばす様子)。なのでサラリーマンをやっています。
ー……「クリエイティブ(creative[名詞]:ライター、アーティスト)への払いが悪い」と、常日頃憤慨しています!
佐々木:(笑)「絵を描きたいなあ」と思ってる時に来た仕事はありがたいです。緻密にやれますし。イラストは、先方の予算によって額に開きも出て来ます。それがチラシなのか・書籍の装丁なのかでも違いますし。
ーアート系の定石になっていますが、絵ではなくデザイン関係に行かないと潰しが効かないですよね……。
佐々木:僕も昼間はウェブデザインの会社に勤めていて、将来的にはデザインとイラストで独立してやりたいなとは思っています。そしたら好きなことも出来るじゃないですか。
ーいやあ、今すぐ好きなことをやって頂きたいですよ……。
佐々木:(笑)いやあ、厳しいですけど、僕もまだ駆け出しですから。そのつもりでいます。
生活のためということもあるんですけど、マンガのストーリーが仕事中に浮かんだりすることもあるので。湯水のようにストーリーが出て来るわけでもないんです。やっぱり「天才」と呼ばれている人達って、ストーリーがばんばん湧く。息をするようにマンガを描けるような(笑)。そんな人にはなれないなとは思っているので。
ーストーリーはどうやって浮かばせましょう?
佐々木:それが分かったら苦労しない(笑)……ほんとに、「ふとした時に浮かぶ」としか言いようがないですね。歩いている時とか。
ー降りて来るものなんですね。
佐々木:もちろん、過去の知識とか情報の積み重ねではあるので、誰かが見たら「誰々の作品に似てる」とかあると思うんですけど、「オリジナルのものを描きたいなあ」とはいつも思ってますね。ふとした瞬間に思いつくオリジナルなもの。
ーふとした瞬間にオリジナルなものを思いつくために、日々の生活で気を付けていることはありますか?「ここをこうしています!」みたいな。
佐々木:「ここをこうしている」(笑)……本屋さんはよく行きますね。ほぼ毎日行ってるかもしれないです。各コーナーを一通り見ています。どんなのが流行っているのかなとか、今どんな小説が出ているのかなとか、参考に出来たりするのがあるかな、と。
ー佐々木さんは新旧洋邦幅広く小説を読まれていますが、村上春樹さんの小説の他にも心に残っている作品はありますか?
佐々木:ストーリーが心に残っている作品は、マンガが多いですね。吉田秋生さんの『カリフォルニア物語(1979年)』や『河よりも長くゆるやかに(1984年)』は今でも繰り返し読んでいます。
ー今年4月からnoteで小説『ショートショートストーリーズ』を連載されていますね。小説家の夢は今もお持ちですか?
佐々木:いえ、さすがに(笑)……文才はないかなあとは思いますね。『ショートショートストーリーズ』は、会社の昼休憩の1時間で書いてるんです。文章には物語のアウトプットの速さがあるので、今は文章のほうに気が向いている感じですね。
ー『インターウォール』のように文筆と絵筆の両方で物語を紡ぎ出す、それが佐々木さんのサイクルになっているのですね。

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夢を仕事にしていくこと——『インターウォール』に続く作品は?/KANA-BOON『結晶星(2014年)』MVが出来るまで

夢を仕事にしていくこと

自分の描きたいもの=皆の読みたいもの、という感じではないんだなあと思うんです。

ー今何か、野望はお持ちでしょうか?
佐々木:野望……ちっちゃい野望ですけど(笑)、noteで子供向けのギャグマンガを不定期で描いているので(『私はひとりになりたいの』)、それをなんとか売り込めないかなという、ちっちゃーい野望(笑)。
ーnoteの『ライナーノーツ -銀河鉄道の夜-』(ネーム)と『さよならイエティ』(モノクロ)の完成版も是非見てみたいです!
佐々木:採用は難しいかなと思って、自分でボツにしているんですけど(苦笑)。
ーギャグマンガの他に今後描かれたいものはありますか?
佐々木:男らしいマンガを描きたいなと思います。女の子が出て来ないような硬派なマンガで。
ーノワール文学、ハードボイルドみたいな。
佐々木:そういうのもやりたいですけど、どうしても「女の子がかわいいから」と、描くように言われて(笑)。自分ではそう思わないんですけど。
ー中原淳一の「少女の友」の友達になってほしいぐらい、かわいいです!
佐々木:ありがとうございます!

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ー仕事をしていくと、他者の要望に応える必要も出て来ますよね。
佐々木:イラストの仕事はあまり言われませんけれど、マンガでは言われますね。「伝わるものにしないと」と。
ー読み手を置いてけぼりにするな、みたいな。
佐々木:そうですね、「客観性が欠けている」と。だから、自分の描きたいもの=皆の読みたいもの、という感じではないんだなあと思うんです。
ー御用命は受けたが気に入らない・でも角は立てたくない時、どうしましょう?
佐々木:全部言われた通りにやらずに、ちょっとだけ自分のやりたいことをこそっと隠しとくとか(笑)。いたずらみたいな。若干の抵抗心を残すのはどうでしょう(笑)。

ーKANA-BOONさんのMV『結晶星(2014年)』のアニメのお仕事について伺います。日本の音楽の素晴らしさには、「詩が道徳的」ということがあると思います。でも、やさしい言葉で道徳心を育む、教科書に載るような感じっていうのは、佐々木さんはやられてこなかったですよね、
佐々木:そう……ですね(笑)。
ー私はそこが好きです(笑)!その佐々木さんならではの刹那、不条理、傷みの描写が、まったく違う『結晶星』をサウンドトラックとして展開されていく。作品内作品みたいな、文学的な構造を成していて、予定調和にはない魅力があのMVにはあると思います。『インターウォール』のように、佐々木さんのお好きな「群衆」、たくさんの人も登場しますね。
佐々木:もちろん、曲と歌詞を頂いて「この曲のビデオを作ろう」ということで、最初は「曲を聴いてイメージを膨らませて下さい」と言われたんですけど、ミュージックビデオってストーリーをはっきり起承転結にしてなくてもいいっていうか。「朧げなイメージを作れたら」とのことでした。納期まで時間的にあまり余裕がなかったですし、僕もアニメーション制作の経験はなかったです。そういった限られた状況で、アニメーション制作会社さんとアニメを作ることになりました。限られた作画の枚数で「どうしよう?」と考えていくうちに「自分ひとりしかいない世界で、街にロボットを置いていく男」の話にしようと思いついて。そのロボットも動かない……と(笑)。
ーちょうどいい(笑)。
佐々木:でも、歌詞と結びつくように、やっと一人女の子が動き出す、みたいな。

ロボットのKANA-BOONメンバーも置かれ、ライブ会場にロボットの人を集める主人公。女の子は主人公のために音楽を流そうとする。

『インターウォール』をKANA-BOONさんのマネージャーの方が御覧になっていて、それで御依頼を頂いたので、ちょっと……特殊な世界観に(笑)。

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ー御理解があり、なによりです!歌詞の世界をそのまま描いたとしても、佐々木さんの作家性とは合わなかったと思います。
佐々木:KANA-BOONを聴く世代は高校生ぐらいだと思うんです。最初に曲を頂いた時に、僕が通り過ぎた音楽、若い頃に聴いていた音楽だなという感覚はあったので。そのまま爽やかな感じにしなくてもいいのかな?とは思いましたね。
ー若い頃はどんな音楽を聴かれていましたか?
佐々木:奥田民生さんとか。今もポップミュージックを聴きますね。邦楽でも洋楽でも流行ってる感じのを聴きます。今だとYeYeちゃんとか。でも、音楽はあまり聴いてないですね……作業をする時は爆笑問題さんのラジオを聴いたり(笑)。
ーお笑い好きなんですね。
佐々木:お笑いは好きです。お笑い番組は何でも見ます!一番好きな芸人さんは爆笑問題さんです。
ー宮崎駿さんのインタビューもよく御覧になるとのことですが、今後アニメをやろうと思われていますか?
佐々木:あんまり……思わないですね。アニメーションはすごく難しいと思います、僕には。マンガってごまかしが利くんですけど、アニメはごまかしが利かない気がするんですよね。僕のマンガって、人物が最初から最後まで同じように描けないというか(笑)。もう諦めてるんですけど。描きたい感情でその顔も変わるじゃないですか。『夢花火』もそうですね。

「夢を忘れる感じ」、そのこころが作品『夢花火』になった。

夢花火を上げる前に

皆、バカなことをやってみて(笑)と思います。

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ー『夢花火』では、(夢花火を上げる=)夢を諦めることを描かれましたね。それが佐々木さんの真骨頂だと思って、大好きなところなんですけど……そこは皆そっとしてきたと思うんです。
佐々木:『夢花火』も、僕の心情を描いたっていうか……『夢花火』を描く前もスランプみたいな感じで。「このままマンガも描けず絵も描けず、サラリーマンだけになっちゃうのかなあ……」と。
ーそんなに追い込まれてたんですかーーーーー……。
佐々木:(笑顔を見せて下さる佐々木さん)うん、そんな感じで毎日……「夢を忘れる感じ」っていう今のこの状況をそのままマンガにすればいいやと。マンガはすごくフィクションに見えるんですけど、描いてるこっちは結構リアル(苦笑)。
ー身につまされて、ドキュメンタリーに見える人は多いと思います。
佐々木:共感する人は多いんじゃないかな、と(笑)。
ー多いです!特に日本は、「夢を持て、諦めるな、頑張れ」っていう教科書の道徳心がありますし、『夢花火』みたいに真正面から夢を諦める様が描かれていると、言葉は悪いですけれど脅迫みたいに「諦めていいのか?」と突きつけられている感じで。御自身のために描かれたという感じもします。
佐々木:そうですね……(再び笑顔で)『夢花火』の時は精神的にもまいっていましたね。
ーマンガのために充てられる時間はどのくらいですか?
佐々木:平日は、帰宅後、夜10時以降から夜中の3時ぐらいまでなんとか描けたら、という感じですね。5〜6時間は寝られるのでいいです。
ー……楽しいことはありますか?
佐々木:楽しいこと?(笑)
ー「佐々木充彦さんでもそうなのか……」って、夢花火を上げそうになるので、楽しいこともお伝えしたいですよ(笑)。
佐々木:絵を描いてる時が楽しいです(笑)。
ー「それで幸せじゃないか」と(笑)。
佐々木:絵に没頭する、集中してる感じはいいなあと思います。

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ーでは、夢を諦めずに「やっていてよかったこと」はありますか?
佐々木:「才能について考えなくなったこと」ですかね。本が出る前は「絵の才能はあるのか」とか考えていたと思うんですけど。逆に今はこんなに考えなくていいのかなと(笑)。前は絵に自信はなかったです。
ー……(絶句)……佐々木さんが?
佐々木:(笑)自分の絵がお金になるようなものだとは全然思ってなかったです。『インターウォール』は、ネットで誰の意見も聞かずにただ好きに連載したものなので。ネット連載時の読者数は多分1000人ぐらいなんですよ。「描きたいものを描く」という自負はあったんですけど、「絵やストーリーの才能はないのかなあ」とは思ってましたね。
ー後先は考えず、自分の描きたいものや持っているものを「出さなきゃ」という想いで?
佐々木:そうですね、後先を考えてなかったと思います(笑)。どうにでもなれというか……あれはでも、20代だから出来たんだと思いますね。
ー「出さなきゃ」だめですよね。
佐々木:皆、バカなことをやってみて(笑)と思います。
ー若いんだからバカやればいいですよね(笑)。
佐々木:『インターウォール』は、(制作期間4年の)最後の1年間は引きこもって描いているので。描いている間に貯金が全部なくなっちゃって(笑)。今思えば「なんであんなことが出来たんだろう?」と。
ー残金との勝負で、「もういいや」みたいな、死の淵みたいなものは見えましたか?
佐々木:「自分を追い込まないと」とは思っていましたね。「ひとりで内面に向かって行く」感じで。まさにあの時は勝負だったと思います。親も「とりあえず最後まで描いたら」「そうじゃないと先に進めないでしょ」と。理解のある親でよかったなと思います。
ー『インターウォール』のネット連載中は、有料にしようとは思われなかったですか?
佐々木:思わなかったですね。お金を取ったりお金をもらったり、という感覚では描いてなかったです、『インターウォール』は。
ー……“祈り”を感じましたね。「あの境地にはもうなれない」と?
佐々木:もうなれないかもしれないですね……この先の人生で何か大きな心境の変化があったら、またそういう作品に結びつくのかなとは思います。

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